歯並びが凸凹していたり、上の前歯が前方に突き出してしまっているなど「歯並びの悩み」は人それぞれです。また、ひとことで「凸凹している」と言っても、その箇所や程度、周囲の歯やスペースの状況も千差万別でしょう。それだけに「どのような方法で、どういう方向性で治療を行うのが最適か」ということも、本当にケースバイケースなのが矯正治療です。
ですから「矯正=抜歯が必要」というわけではありません。一見しただけでは「歯を移動させるスペースがなさそうに見える歯並び」でも、奥歯から少しずつ移動させることでスペースをつくり、抜歯せずに矯正できる場合もあるのです。
逆に、患者さんの症状によっては、小臼歯などを抜歯してスペースを確保する必要があるケースも少なくありません。また抜歯したほうが、治療期間が短縮できたり、治療後の後戻りの心配が減ったりするケースがあるのも事実です。
当院が大切にしている「できるだけ歯を抜かないで治療する」という方針は、
「できるだけ歯を抜かずに矯正治療の目的(体と心の健康)を達する。
子どもでは積極的に成長を利用し、顎の骨格を改善し、歯を抜かないで、良いかみ合わせを達成する」
ということを意味しています。
抜かなくてはならない歯を抜くのは「仕方のないこと」ですし、抜いたほうが良い結果が得られるケースについても同様でしょう。ですが、抜かなくても治療可能なケースであるならば「もったいないこと」だと思います。
「咀しゃく(噛む)能力が低下すると認知症の発症リスクが高まる」と言われているように、歯は「健康の源」です。これからの高齢化社会に向かっては「いつまでも自分の歯で咀しゃくできること」が健康寿命を延ばすことにつながる重要事項ですので、矯正歯科治療においても、できるだけ歯を抜かない治療と、そのための的確な判断や治療の工夫・努力が求められていると考えています。
日本人は骨格的に「歯が大きく、あごの骨が小さいタイプ」が多いため、歯を抜かない矯正治療が困難な場合や、見た目の問題から歯を抜いて矯正治療した方が良いケースが多く見られます。
そのため「他院で抜歯を勧められた」「通常は歯を抜いて治療するケースだと言われた」という患者さんが「本当に抜くしかないのか...」「できれば抜きたくない」という思いで当院を訪れるケースもあります。
そんな中には、当院でも「抜歯が必要」という診断結果となるケースもあります。しかし、歯を抜かないで矯正可能なケースがあるのも確かなのです。
12歳ころまでの乳歯から永久歯への交換時期に来院されて治療を受けた場合は非抜歯の可能性はかなり高くなります。それ以上では、段々非抜歯の可能性は下がってきます。もちろんケースにもよります。
また、大人の場合はどうしても抜いて治療するケースは増えます。その上で、「できるだけ抜かない矯正治療」を目標として工夫や努力を重ねてきました。「限界例の方をどれだけ救えるか」ということなのです。